Itoshima Yamadanishiki- 糸島山田錦 

 (1999年12月当時の文章となります。)

今年の、仕込み第1号は、福岡県糸島郡の山田錦を使用した本醸造です。

食べるお米なら、「魚沼コシヒカリ」が最高とよくいいますが、酒造米は「兵庫県産山田錦」がいわばブランドです。なぜ兵庫山田錦なのかという問題はまたの機会にふれるとして、そのため他の県の山田錦というとどうしても過小評価されていました。

 今年夏、福岡県の糸島郡に、実際の山田錦を見学して来ました。九州というとすごく暑い土地のイメージがありますが、糸島郡の山田錦栽培地は、かなり標高が高いため、冷涼で、そのため山田錦の栽培限界にかかってくるという意外な場所です。 兵庫県の山田錦栽培風景とはまた違いますが、山から清冽な水が湧き出してくる環境は、酒造米の産地として非常に魅力を感じました。また、この見学の際に福岡県が山田錦栽培において古い歴史をもっている事、栽培管理に細心の注意を払い品質向上に努めている事を知り、どうしてもこの米を使いたいという気持ちが高まりました。そしてこの造りではじめて志太泉としてこの米を使う事になりました。  

 それでは、どのようにこの米を使うかという問題になります。山田錦は吟醸酒のため磨いて磨いて精米歩合50%以下で使おうというが普通の発想です。しかしながら、視点を変えてみると良い米を削ってしまうのももったいないという考え方もあります。 山田錦が65%や60%でどんな実力を発揮してくるか?もちろんいままでも他の蔵ではそういう酒はありましたが、志太泉では、まだ試した事はありませんでした。今回の仕込み1号はそういう意味での試みです。また今回は、あくまで「本醸造酒としての酒の趣とか意味」にこだわりました。吟醸に近い本醸造が良いものであるという正論はもちろん正しいのですが、あまりにも正論すぎておもしろくないような気がします。

 今年の九州は、台風被害で非常に作柄も悪く心配していましたが、実際の造りは、吸水や蒸しも順調です。酒母は静岡酵母(NO-2)を使用して、良い香りを醸しております。これからのもろみがどうなるか楽しみです。

追記 現在H22BYでは、糸島山田錦は使用しておりませんが、H13BYでは、主に本醸造原酒、純米原酒の精米歩合60%で使用。H15BYでも本醸造原酒精米歩合60%で使用。福岡、佐賀は戦前は日本酒を大陸に輸出しており、酒米育成の必要があったと聞いております。それぞれの地方の酒と米の歴史を感じます。