新酵母5MT-14 Home酵母>5MT-14
11BYに5MT−14を特別本醸造で造ったときのレビューです。

今年は、新しい静岡酵母5MT‐14を使用して酒造りを行いました。
これは、代表的な静岡酵母HD‐1を元にして、静岡県沼津工業センターの平岡先生が開発された酵母です。
少しだけ技術的なことにふれると、吟醸の果物のような香りには、主にバナナのような香りと林檎のような香りがあります。バナナのような香りの主成分は、酢酸イソアミルという成分で、林檎のような香りの主成分はカプロン酸エチルという成分です。これらは、吟醸酒の発酵過程において酵母が、作り出すものです。その個々の酵母によってどのような香りの成分を作り出すのが得意かという個性があります。
蔵元が個々の酒質を設計するのにあたり、どういう香りにもっていくか考えた場合、どの酵母を選択するかは、まさしく直接的な選択です。(林檎のような香りがする酒つくりたかったらそういう成分を出す酵母を使えばよいという事で一種安易な方法論だが効果は抜群です。これに対して古典的な吟醸酵母は、こうじ造り、もろみ管理の条件次第で香りは出たりでなかったりします)

※ バナナとか林檎というのは、あくまで一般的な感じ方です。
静岡県の酵母は全般的に、バナナの香りを多く発酵する過程で作りますが、全国的にはアルプス酵母等、林檎の香りを主体につくる酵母が増えています。
 今回の5MT‐14は、バナナのような香りをベースとしながら、そこに林檎のような香りをバランスよく生産する酵母ですこの酵母を使って酒造りを行ったのですが、基本的にHD-1と同じ造りで行いました。
(精米歩合50%の五百万石の特別本醸造で1本試しました。)
香りの系統は、酒母やもろみの段階から少し他のものとは、ニュアンスの違いが感じられるものでした。もろみ後期にやや発酵がにぶり、予定よりも日本酒度はかなり低くなりました。またやや酸が高めになりました。日本酒度は通常+4.0くらいが±0.0酸度は通常1.7くらいが1.9となり造り自体が必ずしも予定通りには、いかなかったのですが、出来た酒自体は、以外にも重たさがなく、思ったよりキレのあるものでした。
予定よりも酸がやや高かった事が幸いして酒に張りを与えたようです。
香りは、ちょっと不思議な花のような香りとなりました。この辺は、新酵母の面白さが発揮されています。

他の特別本醸造は、すべて昨年同様のもろみの経過をたどる中で新酵母は違う経過をたどり、あらためて酒造りの難しさを感じました。ところが、この造り手としては、必ずしも予定とは違うものだったのですが、出荷してみると、クリーミーでまろやかとか肯定的な評価していただいた酒販店さん、消費者の方が多かったです。こちらは、造り手と飲み手のギャップの難しさ(面白さと考えた方が前向きかな)ですね。こういう事はよくある事で志太泉の中で蔵としてAのいう酒とBという酒で、Aという酒の方が良いと思っていても、Bという酒が評価が高いとされる事もよくある事です。時として、蔵の考えや造りへのこだわりが、思い込みとなっている場合もあるかなと個人的には感じています。
[2000.4.14]