蔵元になるための進路のしおり Homeコラム>蔵元のなるための進路
 子供のころ憧れる職業というのはなんだろう。男の子であれば、スポーツ選手とかパイロットとか、女の子であればCAとか看護師いうのが標準的であろうか?いずれにせよ酒造りをしたという希望は常識的にはありえないだろう。つまり、ほとんど現在の蔵元の経営者というのは、蔵元に憧れてなりたくてなったのではなく、そこに機会があったからそれに身をまかせた人が多いのである。
 普通高校生ぐらいになると、将来の具体的な職業をイメージする子も出てくる。私が通っていた高校がタイトルは定かではないが「進路のしおり」という小冊子を配付してくれた。個別の職業に就くにはどんな性格の人が向いていて何学部に進学してどんな資格が必要かという冊子である。医者になるのは医学部に進学しなければならないという常識的なものから、公務員になりたい人は正義感が強くなければならないというおせっかいなものまで幅広い内容であった。この冊子の中には、蔵元になるには、どのような性格で何学部に進学しなければならないという記述はなかった。職業選択の重要な要素として資格の問題がある。職業の中には免許が必要な弁護士や医師や大型バスの運転手などと特に免許のいらないフリーターとかサラリーマンとかホストがある。そして蔵元はこのカテゴリーわけだとホストと同じである。
 蔵元は伝統的には酒造りをしないが、仮に造るとしても「国家資格日本酒製造士特級仮免許」とかを取得しなければならないわけではない。あくまで日本酒を製造する免許は人ではなくその製造場に与えれたものである。医者という職業はステイタスシンボルだが、名門開業医のご子息さんが不幸にして(不幸かどうかは本人の問題だか)医学部に合格できなければ、名門医院の存続もあやぶまれる。その点蔵元は幸運にも(あるいは不幸にも)後継者の学歴は不問である。そのため、何学部に進学しなければならないというものはない。
但し日本酒の製造技術を学ぶという意味では、本流がある。
それは東京農業大学醸造科(正式には東京農業大学応用生物学科醸造化学科)というところである。
 多くの日本の大学の中でも、醸造の名を冠したのはここだけであり、古今東西多数の蔵元を輩出している。おそらく全日本酒蔵元の圧倒的多数の出身大学は東京農業大学醸造学科関係である。ここで何を学ぶのか。実は、私はその他の大学卒なのでよくわからない。おそらく漫画「もやしもん」のようなイメージ的な部分もあるのではと思う。また多数の有名蔵元も農大出身であり醸造業界の人脈ができるという意味でも有用な進学先である。また外部からみても非常に卒業後も卒業生の連帯感のある学校だなと思う。
 その他でも、酒造り関連分野は、主に農学部農芸化学系(最近は改組により応用生物とかという名前が多い)とか広島大学や大阪大学、山梨大学等には工学部で醗酵系を学ぶことができる。
 もちろん他の分野に進んだ後でも、まだ醸造関係の技術を取得する機会はある。東広島の醸造研究所では、いわゆる蔵元の次期経営者に技術研修の門戸を開いている。
 技術を習得した後は、お酒の流通に関わる問屋さんや小売店さんで修行するというケースもよくある。まあ製造と販売この両方を体験してから蔵に戻って経営に関わるというのがあえていえば蔵の後継者の正道でしょう。
 ただし、それ以外にも様々な道を経て蔵元になられた方もある。私も違う道を経てから静岡県工業技術センターの研修制度で醸造関係を教えていただいた。まあ正道を歩むのも裏道から行くのもそれなりいろいろありでいいんじゃないかな。
[2010.7月改稿]