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<醸造アルコール>
 蔵元のサイトは数多くあれど、米について詳述しているサイトは多いが、醸造アルコールについて言及されているサイトは少ない。米作りが、「夏子の酒」に代表されるように、日本酒の世界のピュアな部分の象徴であるとすれば、醸造アルコールは、日本酒のダークサイドとして、唾棄すべきものあるいは、触れて欲しくないものであるようだ。
 現在(2010年)日本で日本酒用に使われている醸造アルコールは、海外で廃糖蜜(さとうきびから砂糖を精製した後の液体。色は黒からダークブラウン。かなりの残糖分を含む。ラム酒や黒糖焼酎に似た香りがある)等の含等質やタピオカ等のでん粉質を原料にアルコール発酵させた後蒸留されたアルコール(粗留アルコールと呼ばれ純度の低いアルコール)を輸入してスーパーアロスパス塔等で蒸留して純度を高めたものである。かつては、日本国内のアルコール工場でもアルコール発酵工程も行われていたが、この工程では必然的に醗酵廃液が副生される。かつてこの醗酵廃液は海洋投棄されていたが、ロンドン条約で廃水処理規制が強化され、特に96年議定書では、海洋投棄はほぼ全面禁止された。それが大きな要因のひとつとなり醸造アルコール生産用としてのアルコール醗酵は日本国内ではほとんど行われていない。また、約20年前の国内でアルコール発酵工程が行われていた頃は、発酵原料としては、廃糖蜜以外に甘藷、米等が用いられる事があったが、これは、国内生産農家を保護するための施策であり。その絶対量は少なかった。米、甘藷等を原料とするアルコールは、かすかに、その原料由来のフレーバーが感じられる。現在このようなアルコールが製造、流通しているかはわからない。ただし、自社で製成した米由来のアルコールを吟醸酒に添加する手法を用いる蔵元もある。
 醸造アルコールの市場は、設備投資が高額なわりに市場の将来性がないため(この部分は私的見解)参入のない寡占的な市場である。主な企業としては第一アルコール(旧協和醗酵のアルコール事業部門がキリンへの統合に伴いメルシャンのアルコール事業と統合し別会社化された)、合同酒精(オエノンホールディングス)、明利酒類等がある。市場占有率は定かでないが、第一アルコールのシェアが高い。志太泉酒造では、第一アルコールの醸造アルコールを主に使用している。
 なお蔵元には、通常タンクローリーあるいはドラム缶でアルコール度95%のアルコールが到着する。蔵元ではこれを直ちに30%以下に加水する。これは消防法の規定による。
 石油由来のエチレンより合成されるアルコールが醸造用に使用されることはない。平成元年の国税庁告示第8号「清酒の製法品質表示基準」により、「醸造アルコールとは、でんぷん質物又は含糖質物を原料として発酵させて蒸留したアルコールをいう。と定義されている。
 石油由来のアルコールは経済産業省所轄であり、アルコール事業法により酒類への不正使用は防止されている。

<醸造アルコールに良いものと悪いものがあるか>
 基本的には純度以外、良いものも悪いものはないが、蒸留直後のアルコールは、非常にとげとげしさがあり、アルコール添加した場合、アルコール臭がきつく味わいも荒さがある。蒸留後、十分時間が経過しているものは、比較的まろやかである。そのためアルコールを長期貯蔵してからアルコール添加をするという方法が用いられることもある。

<アルコール添加酒(この場合においては普通酒)を造る理由>
 結論的に言って普通酒を造る理由は、地元藤枝の方に小売価格税込み1700円程度で買える、日常飲んで飲み飽きない雑味の少ない酒を販売するためです。
 アルコール添加酒の優れた点の中で、極端に言及されない点は製造原価が安い事です。製造原価が安いものを造るという事は、蔵元にとってひたすら隠蔽しなくてはならない事のように現実的に扱われておりますが志太泉はそう考えておりません。、志太泉で純米酒でそれなりに納得できる酒を造ろうとすれば小売価格で税込み2000円以上にはなります。もし純米酒で小売価格1700円の酒を販売するとすれば、そんな酒は絶対自分では飲まない納得できない酒質となります。具体的にどうやって造るかといえば、一般米を原料に浸漬で水をどんどん吸わせてやわらかい蒸し米をつくり、麹は極端に菌体量を多くして汲み水歩合を限界まであげて出来る限りアルコールを収奪するためにどろどろに醪をとかしたあと高温でがんがん醗酵させます。志太泉の考える酒質においてそんな純米酒が現在の志太泉の麹には五百万石か山田錦を使用して限定吸水して低温で醗酵させる普通酒より美味しくなる事はありません。(もちろんこれは嗜好品ですからそういうタイプ純米酒が美味しいと感じる人もいるでしょう)
 よく言われるのは、戦前まですべて純米酒であり、戦争中に米不足のため、増醸酒ができた。長い日本酒の歴史のなかで、アルコール添加酒の歴史は細かい事を抜きに考えればせいぜい戦後70年足らずとなります。だから日本酒本来の純米酒に立ち返るべきだと言われています。
 しかし、逆にいえば、70年の歴史があるわけです。藤枝市のずっと何十年も志太泉のアルコール添加酒をのみ続けてきた70歳や80歳のおじいさんおばあさんにあなたの酒は今まで飲んできた酒にせものの酒だからもっと高い2000円以上の純米酒か1700円程度の美味しいとはおもえない純米酒を飲んでくださいというのは、とても不誠実な事だと思っています。だから毎年いかに現状の普通酒をより美味しくするための方法を考えます。要するに、頭でしか物事を考えない人(あるいは自分の商売にため純米酒愛を貫く必要がある人)にいかに馬鹿にされても、地元の一般の高齢者にとっては、原料が米であることしか能のない価格が高い酒よりは、にせものだろうがなんだろうが、約1700円で買える美味しい酒を造る方が意味があるだろう。ということです。
 これは、いわば未来志向のマーケティングを全く無視しているわけです。普通酒の主な需要家は、藤枝市の中高年層です。だから今から20年30年して彼らが全員お墓に行ってしまったたらこの普通酒の市場は小さくなるでしょう。でもこれは蔵元の供給責任だと志太泉は考えています。だから絶対に普通酒造りはやめません。
 こんなように書くと、まるで純米酒を嫌ってるようですが、そんな事はありません。なにしろ純米酒フェスティバルに出展してるくらいですから。