春から夏の蔵元の仕事

 何回も書いてきましたが、小さな酒蔵は春には酒造りが終わります。志太泉も4月上旬には、杜氏たちは、岩手県に帰って田植えの準備をはじめます。つい余談になりますが、当蔵の杜氏の名言の一つに「酒造りはアルバイト」というのがあります。私の本業は、農業で、酒造りはあくまで農閑期のアルバイト(副業)ですよという意味ですが、アルバイトにしては、いい仕事をしてくれるアルバイトチームです。
 杜氏たちは、蔵に生酒と火入れしたお酒をタンクに残して帰ります。一言でいえばこの生酒を瓶詰めして瓶火入れするまでが、夏までの酒蔵の仕事です。
 文章にすると簡単ですが、この瓶詰め、瓶火入れは、あきれるほど手作業の工程が多いです。(酒造りよりむしろ手作業は多い)
 最初にお酒を利いて濾過すべきか、濾過するのであれば、どのくらい炭素を使うべきかを決定します。(炭素は本当に真っ黒い粉です。)この炭素の表面に小さな穴が開いています。お酒の中に炭素を入れるとその穴に異臭や雑味の成分がくっつきます。酒を濾過した時、炭素は除かれ異臭や雑味も取り除かれます。反面、吟醸の香りや旨みも取り除かれますので、炭素の使いすぎは、酒のボデイがなくドライなだけの面白みのない酒になりやすいです。一時の淡麗辛口の全盛期は、こういうスーパードライなお酒が流行でしたが、その反動からか、ここ数年は、お酒にふくらみがある無濾過生原酒もブームになってきました。今後はどうなるんでしょう。この炭素の量は蔵によって違いますが、志太泉はかなり少なく大吟醸クラスは酒1000Lに炭素0グラム-20グラム、特別本醸造クラスで0-30グラムくらい程度使用しています。(無濾過生原酒は文字通り濾過されずに直詰されます)
※多いところでは、酒1000Lに1000グラムの割合で炭素を使用するようです。
 濾過後、生酒を瓶にレイメイとういう瓶詰機でつめますが、この瓶詰機の構造は、上からお酒を入れ、ノズルに瓶を手で差し込むと瓶の中にお酒がでてくるという極めて簡単なものです。しかし、高さを調整すると1.8Lから300MLまでどんな瓶でも詰められるすぐれものです。おそらく、使い始めて30年以上経過しますが、いまだに現役の瓶詰機です。瓶詰しても、生酒(本生)以外は、瓶の上にキャップを乗せただけにしておきます。次に火入れをするためです。(キャップを閉めて火入れをすると酒が膨張して瓶が割れてしまうため)
 火入れ作業は、水を張った長方形のふろおけのようなものに瓶を並べ、下から蒸気で温めます。(うえにキャップをして湯煎しているような状態です。)瓶のうち1本に温度計を差し込んでおいて62度に達すると瓶をお湯から引き上げ、キャップを閉めて、急速に水で冷します。その後は氷を加えなるべく急速に冷やします。
 あまりにも。急激な温度変化があると瓶が割れてしまいますが、瓶が割れない限界まで急速に冷やしていきます。冷え終わった酒は冷蔵庫に入れて出荷を待ちます。
この作業は、瓶燗急冷と呼びますが。この作業は、志太泉では特別本醸造以上はすべてこの方法でやっています。蔵の自慢はあまり好きではないのですが下のクラスまでこの方法をとるのが志太泉のこだわりです。
 火入れの直後はお酒の味が荒くなります。火入れ後、最低一ヶ月低温貯蔵してから出荷となります。
[初稿2000.7.15 改稿2002.6.20]

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