一升瓶をめぐる一考察(上)

 残念な事に、現実の日本酒の消費量は減少の一途をたどっています。
その理由は、いろいろとあると思うのですが、有力な理由のひとつが、現在でも日本酒の出荷の主力である一升瓶が、現在の生活様式に合わないという点です。「重い」「大きすぎて冷蔵庫に入らない」「デザインが悪い→おやじくさい」。と悪いイメージばかりです。
 昔、経営コンサルタントの方は、日本酒に関する講演の時こう言われていました。『現在の食卓風景の主流である「テーブル、テーブルクロス、洋食器」の構成に対して、ワイン瓶はしっくりいくのに対して日本酒の一升瓶をもってくるのはあまりにもセンスが悪くどうしようもない。日本酒も、カラフルなデザイン的に面白い変形瓶に詰めたらもっと若い世代にも受け入れられますよ!』いかにも経営コンサルタントさんらしい視点の分析ですが、十分説得力のある説明です。
 でもこれ位の事はわざわざ指摘を受けなくともいくらアホな日本酒の蔵元でも気づきそうなのに、なんで、いまだに一升瓶が現在でも主流かというと
仮説1(需要者の事情系?)
田舎では、いまだに、一升瓶をまとめてケースで買っていく、年配のヘビーユーザーの存在がする。(これは、切実に感じる地酒蔵が多いのでは、志太泉もこういう地元の方の存在には足を向けて寝れないですね)
仮説2(需要者の事情系2?)
業務店(居酒屋、割烹、レストランなどのこと)での消費の主流が一升瓶である。これの分析は、ややフクザツです。(まず、業務店といっても、価格的に、割と高めの地酒主体の店から、値段で勝負の全国チェーン店まであり、また、業態からみても、寿司屋さん、蕎麦屋さんから、フレンチ、イタリアンレストランまで、個別の事情はそれぞれ、異なると思われます。)
 但し、地酒メインの店はわりと一升瓶から升やグラスに日本酒を注ぐところを見せて演出したりする事も多く(その量は普通180ML以下なので飲み屋さんの売値は通常500円から1000円程度)720ML、300MLの出番は意外と少ない。(売値は720ML2000円以上、300ML1000円以上になりがちなので意外にうれない)
 また安い居酒屋あるいは燗酒主体の店では一升瓶あるいはパックの日本酒が多く、(同じお酒なら小容量のものより)量当りの単価が安い一升瓶がお買い得という事かもしれません。
仮説3(蔵元の事情系、サプライサイダー?)
蔵元が、一升瓶が好き?これは、個々の蔵の問題と思われますが、いままで一升瓶だから同じ事をすればいいという超保守的な業界かもしれません。蔵元が小瓶(720ML、300ML)に展開して、売上数量増加に失敗したのかもしれません。もちろん長期貯蔵における一升瓶の優位性とか、リサイクルシステムとしての一升瓶とか哲学をもってる蔵もまた多いと思います。
仮説4(エコロジー派?)
中容量瓶にビール瓶のような統一した規格(リターナブル)瓶がない。実はR瓶(リターナブル瓶)という500MLという統一したものがあるのですが、あまりにも流通していないので回収しようがなく、実際はワンウェイ瓶(使い捨て)となっている悲しい現実があります。
仮説5(空瓶やるから金をくれ系?)
一升瓶は酒販店がかつて引き取ってくれた。御用聞き(サザエさんの三河屋さんの事)の減少とともに最近は引き取ってくれないような気もします。(昔は1本10円で引き取ってくれるのが静岡の相場だったような気がしますが、今は全国的にどうでなんでしょう。)

初稿の二年前に比べさらに一升瓶の流通は減っています。いまや日本酒流通の主役は大容量紙パックです。とりあえず今日はここまで、次回は一升瓶に対する思いを語ります。
[初稿2000.5.6 改稿2002.4.17]

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