電気の恩恵

 このコラムは、既に懐かしい言葉となってしまったY2K問題(2000年1月1日に大混乱(大停電)が起きるのでは懸念されていた時に書かれたものです。

冒頭でY2Kで被害はなかったと書きましたが、電気の供給が断たれれば、今の酒造りは、本当に、本当に困ってしまいます。

何が、いちばん困るかといえば、独断で三点。
1.こうじ室の室温が下がってしまう。
2.もろみの温度が上がってしまう。
3.酒等を移動するポンプが使えない。

電気のない時代はというと、1は、湯たんぽのようなものを大量にこうじ室内にいれて温度が下がるのをふせいでいたようです。現在は、ほぼすべての酒蔵が、電気によって室温を保っていると思います。
(それ以外の蔵がありましたらぜひ情報を下さい)

2は、氷を中にいれた筒状の物をもろみにつけて温度を冷やした。
この方式は、あるいは現役かもしれません。

3手押しポンプとあとはひたすらタメで移動。
(タメというのは、とってのついた25リットル位はいる桶のことで、現在でもこれで、水とか、酒とか、酒母とかいろんな液体を運びます。今もすべての酒蔵にあると思います。)

これ以外にも蒸し米を冷やしたり、酒のしぼる機械、保存する冷蔵庫等すべて電力によるものです。これを、二千年元旦から突然電気が使えなくなってしまったら、現実的には酒造りは不可能です。

例えば、もろみに関していえば、電気のない時代に、もろみを低温に保つのは暖かい地方では、現実問題、非常に困難でした。そのため、雪国の酒蔵では、おいしいお酒が出来そうだなとういうイメージは、それなりの説得力があるものでした。暖かい地方で、理想的なもろみの温度経過を保つため、電気は非常に貢献しています。逆説的には、暖冬の時には、その対策をしてきた暖地の蔵が、いままではそのような必要のなかった寒地の蔵に対して優位にたった
りする状況が生まれてきています。(あくまで各論の話ですが)

志太泉も酒の貯蔵を含め酒蔵自体が、冷蔵庫だらけになってきています。
話がまとまらなくなりましたが、酒蔵も吟醸酒というのは電気文明によって成り立つものであるという自覚をもって、いたずらにすべて手造りですとか安易な表現はすべきではないと感じています。


[初稿2000.1.6 改稿2002.3.18]